「青い日々」

50歳からの多幸感あふれる、幸せな生活

悲しい気持ち


混んだ電車に乗らなければならない時もある。そんな時は時間を合わせて始発の電車に乗る。そうすれば座ることができる。

二駅も過ぎると、社内は満員になる。外も見えないし、不機嫌な空気が充満しているが、座ってさえいれば本を読んだり自分が好きなことができる。ささやかな自己防衛。

途中の駅で乗り込んできた女性が僕の前に立ったのだが、徐々に体が前のめりになって来るのに気付いた。調子が悪いのだろうか。そう思ったら僕の右隣りの席が空いた。だけどその席は他の女性がそそくさと座ってしまった。

目の前の女性は書類がたくさん入った紙袋を足元に置き、手すりにつかまりながらも頭が段々垂れていく。髪の毛が前に覆いかぶさってしまっているので表情も分からない。まだ若い子だ。これは席を代わってあげなきゃかな、そう思ったら僕の左隣の席が空いた。よかったー。

ドサッ、大柄のスーツの男性が勢いよく座ってきた。あらまー、譲ってあげないんだ。その女性は膝に手を当て、電車の揺れにも耐えられない感じになっている。

「座りますか?」そう言って僕は席を立った。その女性は消え入りそうな声で「ありがとうございます」そういうとこちらを向きもせず椅子に座り、そのままうなだれてしまった。ホント大丈夫だろうかと心配になる。

先に僕の左右に座った人は我関せずといった感じで目を閉じている。結局この女性は僕が下りるまでそのままだったので、その後のことはよくわからない。

僕は席を人に譲ったりするのは得意ではない。もちろん譲りたくないというのもあるが、本当にそうすべきなのかわからないことが多いからだ。大げさに言えば勇気がない。

でもその時は、誰がどう見ても明らかだった。ホントならいいことしたなーくらいの気持ちになるのだろうが、僕の両隣に座っている人たちを見ると暗澹たる気持ちになった。

何より、その二人がひどく不格好な人間に見えてしまった。単に二人は調子の悪い女性に気がつかなかったのかもしれない(そんなことはないと思うけど)。でも、こういう人になりたくないな、思われたくないな、そんなふうに思ってしまう自分がいた。

イライラでもない、オライラするのでもない、なんか悲しい気持ち。だから混んだ電車には乗りたくない。明日は早起きして空いている電車に乗ろう、そんなことを思ったある日のできごとだった。